根三つ葉

IMAGE茎が太く、瑞々しく、白く、葉も鮮やかなきみどり色の根三つ葉がやっと出回り始めた。たっぷりの油揚げと煮浸しにしようか、それともさっぱりとお浸しか、炙った油揚げと山葵醤油もいい。

 最近は、高値を狙ってか、早め早めの出荷となり、本来の出盛り時期のかなり前からスーパーマーケットの棚に並べられている。季節感がどうもおかしい。まだ寒い時期にハウスを重油で暖房し、無理をして栽培した高値の"根三つ葉"では、せっかくの季節ものの持つ、三つ葉本来の春の香りやその味わいを存分には味わえない。スーパーマーケットに、その過保護に作られたであろう高価な根三つ葉を見つけると、こちらは「まだ待機」の態勢に入るのだ。それをしばらく横目で見るだけで何日か過ごし、本当の出盛りの旬の根三つ葉が出てくるまでじっと待つ。いわゆる"出盛り"の力強そうな根三つ葉に変わり、値もかなり落ち着くまでの間は手は出さない。うっかり手を出して香りの少ない三つ葉を食べてがっかりはしない、という対策なのである。

旬の根三つ葉(野菜)には、生き生きとした香りがある。繊維もしっかりしていて力強い。人は食べ物(生きているもの)から活力をもらって生きているのだから、それを糧とするのだから、活力の感じられるものを食べたい。

IMAGE元気そうな茶色い根がしっかり付いた"根三つ葉"は、関西には無いらしい。関西に出回る三つ葉には根は付いていない。細くて緑色の濃い青三つ葉が主流という。もともと三つ葉は日本原産で中国、韓国、台湾、にも分布し、自生しているものを野草として採取していたが、江戸時代から栽培が始まり、軟化栽培という、土を被せて茎を白く軟らかく育てていく栽培法が取り入れられたようだ。そういえば子供の頃、春になると野原に自生していた三つ葉を摘んでは春の香りを味わったが、茎が固かったという記憶がある。軟化栽培した根三つ葉を根元から切ったものを「切り三つ葉」、密植して茎を細くしてやや軟化させたものが関西主流の「青三つ葉」。この青三つ葉を水耕栽培したものは、スーパーマーケットでよく見かける、あの根にスポンジが付いているものなのである。水耕栽培のお陰で一年中三つ葉が食べられ、豆腐の味噌汁や吸い物、卵とじ、煮浸しには欠かせない吸い口、薬味となっているが、露地栽培の根三つ葉が出てくる春だけはどうしてもこれを使いたい。普段は吸い口や薬味だけのちょっとした脇役の三つ葉が、この時期だけは、「春の根三つ葉料理」という主役に格上げされるのだ。せっかく根三つ葉なのだから、根のキンピラも食べたい。根は根気よく洗ってきれいに掃除をする。これをごま油で炒め、みりんと醤油で味付けすれば風味豊かなキンピラの出来上がりである。根の一部は庭の土にいけておけば秋には小さなめが出てくる。これを摘んでは吸い口に使えば楽しみが増える。また、根を水につけて窓辺においておけば自家製水耕栽培となる。これも小さな芽が出てくるのでちょっとした薬味に使える。

三つ葉の根の掃除、茎を刻むときの包丁の刃当たり、三つ葉の力強い香りと若々しい風味、くたくたに茹で過ぎていない、ほどよいお浸しの食感、その美味しさと味わう心地よさも含めて、春の食べ物の記憶の一片としてしっかり五感に刷り込ませておきたい。また来年、この時期になると身体の中から"根三つ葉"の香りが恋しいと思えるように。