実山椒
大根おろし
カボス
青唐辛子
オクラ
青シソ
蓼(たで)
木の芽
花わさび

実山椒

山椒は季節によって呼び名が変わる。春の青い実を「青山椒」、秋になり熟した実が赤く色付くと「実山椒」、さらに中から黒い種がはじけ出ると「割り山椒」となる。この「割り山椒」を粉末にしたものが「粉山椒」。「粉山椒」はうなぎの蒲焼やどじょう料理、川魚料理、鳥料理の臭み消しには不可欠な存在である。赤出しの吸い口にも欠かせない風味付けだ。

粉山椒と長葱の乙な薬味がある。甘味も辛味ものった冬葱約五センチを微塵に切り、粉山椒耳掻き二杯ほどと塩一つまみ、ごま油小さじ一杯ほどを混ぜ湯豆腐の薬味にするのである。昆布と豆腐だけのシンプルな湯豆腐鍋が、ポン酢や醤油の他にこの葱山椒を添えるだけで粋な湯豆腐に一変する。

「山椒」とは和名で「山」の「椒」(はじかみ)と書く。「はじかみ」とは「生姜」「辛味」である。すなわち「山の辛味」という意である。

初冬の山を散策していて、実をつけている山椒を見つけた。実が裂開している。"割り山椒"だ。「うなぎの蒲焼にかけるあれのもとが、これなのか・・。」とその裂開した実を一粒口に入れ噛んでみる。山椒の香りが口中に広がり、その直後に辛味が来たかと思うと同時に、その実が口内に接触した部分にピリピリと痺れが走り出した。一粒噛んだだけなのに、その後30分は痺れたままだった。しかし、かなり刺激的な辛味と痺れがあるのにその風味は以外に爽やかでこの口中で起きている体験したことの無い事件が少々楽しくもある。痺れが治まる頃、心地よい目覚めの気分のような、頭がスッキリしたような爽快感を味わえたのは"山椒効果 "だろうか。

この山椒の風味を噛み締めながら「そうか、この季節には脂がのり始める川魚や野鳥、これらのこっくりした料理には粉山椒の風味がしつこさを緩和するのだろう。そしてピリッとする刺激的な辛味はその料理の重要なアクセントにもなる。」「しかも臭み消し・毒消し効果 もある。さらには胃健・整腸効果も期待できるとあれば一石二鳥ならず一石三鳥である。」と改めてその理に感嘆してしまう。

先人達は食の"食べ合わせ"や"毒消し"、"食材の組み合わせの妙"を自然の中から探し出し、実際に生活の中で活用し、より洗練された知恵として次代に繋いできたのである。自然の恵みとそれを支えてきた食の歴史に只々感謝である。



大根おろし

大根の種類は様々で、タイプ別にヨーロッパ大根・中国大根・日本大根に分類され、日本大根の作型として春大根、夏大根、冬大根がある。野菜生産量 のトップである大根は、地域によって生産量の多少こそあれ、一年間を通して日本のどこかでは生産されているということなのだ。また品種には地域性もあり、その地域でその時期にしか出来ないという地方品種がある。桜島大根や守口大根、亀戸大根に三浦大根、練馬大根などはその「地方品種」にあたり、それぞれ個性のある味わい深い美味しい大根である。ところが約20年程前から、作りやすくて辛味が無く、甘い大根・・いわゆる「青首大根」が品種改良され、今ではその「青首大根」が生産の主流となっている。

「青首大根」は辛味が無く甘いことがその特長で、生でも良し、煮て良し、甘く食べ易く・・と三拍子揃い、大根の消費・活用には貢献度が高いのだろうが、その分地方品種が消えていってしまい“この季節にあの地方の大根”が店先に並ばなくなってしまったというのは少々寂しい話しでもある。

前置きが長くなってしまったが、「大根おろし」が大昔から、日本の料理を脇から静かに引き立ててきた歴史とその実績は、日本全国で育つ大根が四季を通して生産されることと、きっと関係しているに違いない。そして今、改めて「大根おろし」を添える料理を思い返してみると、何とありとあらゆる料理に、よくもこれだけ相性が合うものかと数えても限が無いほど出てくる。「鍋」「湯豆腐」にはおろしとポン酢、「天ぷら」や「揚げ物」に生姜とおろし、「焼き魚」に柑橘とおろし、おろしの「酢の物」、おろしの「和え物」、「ステーキ」「焼肉」にもおろしを添え、「大根おろしスパゲッティー」まである。科学的にはこうだ。消化酵素のジアスターゼが消化を助け食欲増進を促す。ビタミンCも豊富である。風邪の発熱や二日酔いにはおろしが効果的免。そういえば子どもの頃、お腹が悪いと土鍋で炊いたお粥におろしと梅干の食事がもの凄く美味しく思えたのを思い出す。咳止めやシップなどにも利用され、種子は咳止め用漢方処方に使われるとも聞く。もしかしたら日本人は「大根おろし」に支えられて生きてきたのかもしれない。

辛い大根おろしが好みならば白首大根の根に近い部分を直線的に力を入れて擦るのがよい。辛味の無い甘い大根おろしが好みなら青首大根の上部を木目の細かいおろし器で円を描きながら優しく擦るのがよい。いずれにしろ皮は剥かず、食べる直前におろすのが美味しい。

大根おろしを雪やみぞれになぞらえて「雪見鍋」や「みぞれ和え」などというネーミングは風情があってなかなかいいと思う。江戸初期に大根料理が全国に広がったという文献を手にしたが、その頃の人々はおそらく旬の食材の味だけでなく、その時期の季節感も賞味するゆとりとその度量があったのだろう。

今、この時代に生きて、歴史深い食文化の豊かさに触れる度に自然から恵まれる食材の真価を次代に伝えてゆく使命感のようなものを感じて止まない。



カボス

カボスはスダチより一回り大きく、香りがよく、とてもよい風味の大分特産の香酸柑橘である。当地ではかしわの水炊きやふぐにはなくてはならないものとして、湯豆腐や冷奴にはもちろんのこと、鍋物・焼き魚・揚げ物・椀物・お酒やジュースの酸味付けに、そのまま絞って生ジュースとして、などありとあらゆる食材に活用されている。

カボスはおよそ300年前から食酢や薬として利用されてきたという。クエン酸が豊富で疲労回復に効果がある。さすがに柚子の枝替わりとして生まれたといわれるだけあって、香り・風味に富んでいる。

毎年、カボスやスダチを半分に切った時の種の多さには圧倒させられる。種が多いということは生命力の強さの証しなのだ。果実を半分に割り中にいっぱい詰まっている種を除きながら「種が多い。」と文句を言いつつも、300年もの昔から伝わる食酢として柑橘果汁を絞る食文化と、この原始的な柑橘に愛着を感じていた。しかし最近この厄介な種が無い改良種が開発されたと聞く。人間にとっての都合だけを考え、ホルモン操作で改良することには抵抗感が湧きあがる。植物学上からいえば、種が多い方が高確率で次代に繋がる訳だから種を多く作れる植物自体、健康な証拠だということになる。いや、そういうことだけではなく300年前からの柑橘がそのまま今も残っているということ自体、とても豊かなことなのだ。こういった趣のある豊かさが最近どんどん失われていくようで淋しい。食卓で芳香と風情を味わおうとする輩に、種を除く時間を省く便利は必要ない。

秋も深まり、熱々の湯豆腐に添えられた一味唐辛子とカボスのポン酢。このマイルドな芳香と優しい酸味がこの時期に採れた食材に添えられる。こういう豊かな食文化はこのままずっと絶さずにおけないものだろうか。



青唐辛子

唐辛子はナス科の野菜で、辛味種と甘味種に大別される。「鷹の爪」「八房」「伏見辛」等は辛味種、「ピーマン」「ししとう」「伏見甘長」等は甘味種でその幅は広い。

“青唐辛子”とはいわゆる「鷹の爪」「伏見辛」等を青いうちに収穫したもので、そのまま時を待てばやがて赤く熟す。つまり唐辛子の未熟果なのだ。この辛い青唐辛子のカロチン・ビタミンCは他の野菜より数段多く含まれ、これが赤く熟すと更にその量が増えると言われている。

唐辛子の辛味成分、カプサイシンには昔から強い抗菌作用があるといわれ、腐敗防止のために唐辛子を用いた保存食品も少なくない。また、胃腸内の殺菌作用、健胃作用、疲労回復などに効果がある他、最近は健康や美容面でも改めて注目され始め、カプサイシンが体内に入ると、エネルギー代謝が盛んになり体内脂肪の燃焼が進む効果、免疫力を増進させる効果もあると聞く。適度な辛味は舌や胃を刺激して食欲をすすめ、味にも刺激が出るので、塩分が少なくてもおいしく食べられるという減塩効果もあるようだ。

しかし、どんなうんちくよりも青唐辛子の青臭さ、この赤唐辛子には無い独特の香りが「うまい冷奴」を食べる行為を想像させる。

生の青唐辛子をちょっとこだわった好みの醤油に漬け込む。熱湯で消毒した空き瓶に洗って水切りをした青唐辛子を詰め、醤油をとくとくと注いでフタを閉め、そのまま冷蔵庫に保管するだけ。一週間もすれば食べ始められ、1年以上は軽く保つ。漬かった青唐辛子を刻んで削りたての鰹節と共に冷奴にのせてもよし、青唐辛子醤油のみを冷奴に添えてもよし・・・「青とう」がある時期に 一度は食べたい冷奴の風味である。




オクラ

オクラはアオイ科の一年生果菜。

槿(ムクゲ)の花は朝咲いて夕べにはしぼんでしまう。

「槿花一朝の夢」の詞通り花は華麗で美しい。この渦巻状の花が夕方にはクルクルとしぼんで閉じてしまい、翌日朝陽が上る頃にはぽろっと枝から外れ落ちてしまう。儚い。

・・と、感傷に浸っている間もなく見ると、落ちた花の跡にはオクラの実が膨らみ始めている。感傷どころではない。オクラにとっては植物としての生理の大変革の瞬間なのだろう。一夜にしてこの作業が繰り広げられると思うと植物の神秘の深さに感嘆してしまう。

この瑞々しい黄緑色のオクラの実はこの後、夏の青空に向かって、つまり上に向かってズンズンと伸びてゆく。落花後5〜6日で6〜7?まで成長し、このくらいがもっとも美味しい食べごろだという。

暑い夏の昼下がり、採れたての生のオクラを細かくたたいてオカカと醤油でよく混ぜ、粘りを出す。これをキンキンに冷やしたとうふに盛って食らう。これで元気が湧かない筈はない。因みにこの粘りはペクチン・ガラクタン・アバランなどの混合物で整腸作用や血中のコレステロールを減らす働きがあるという。

夏は夏の食材を賞味する。オクラの天へ向かって生きる力強い生命力をいただいて明日への活力にする。しかも美味しく味わって。この上ない贅沢の様な気がする。



青シソ

青シソは「大葉」とも呼ばれ、寿司屋や割烹料理屋などでは欠かすことのできないツマのひとつである。ハウス栽培等の技術の進化により、今では一年中出回りいつでもどこでも手に入るようになっているが、本来、露地ものの青シソが出始めるのは7月初旬頃から。民家の庭先や家庭菜園などで日に日に大きくなり、少しちぢれのある肉厚の葉をゆさりと垂れ下げている様は、正に「大葉」と呼ぶに相応しいと感心してしまう。不思議なのはこの頃になると蒸し暑い日が続き、大葉をたっぷり刻んで振りかけた冷たい素麺が無性に食べたくなることである。

青シソを千切りにして薬味や寿司飯に混ぜ込む時は、千切りにしたそのまな板の上で、青シソに塩少々眩し、シソの葉をよく揉んでギュッと青汁を絞る。すると濁ったアクがポタポタと流れ、鮮やかに色が止まってしまう。塩鮭とキュウリと大葉と白胡麻の簡単バラ寿司の時も、冷や奴の薬味にも、素麺の薬味に添える時もこのやり方が美味しく香りが高い。この時期の弁当の仕切りに大葉を使うのも防腐効果が期待できてしかも香りと色が食欲をそそる。またイタリアン料理のバジルの変わりに大葉がよく合う。いや大葉の方が日本人の味覚に向いているのかもしれない。

青シソはビタミン類、ミネラル類ともに多く、特にカロチンとカルシウムの含有量は野菜の中でも抜群と言われている。特有の香りには防腐作用の成分が含まれていて、葉を乾燥させ粉末にした漢方薬は魚の中毒の中和効果があると聞く。梅雨時でもあり、気温が急上昇して食中毒などが起きやすいこの時期にちょうど露地ものの青シソが旬を迎え、重ねて食の嗜好もさっぱりした青シソの香りに寄せつけられてしまうのは、個人の嗜好というよりも先人達に埋込まれたDNAの仕業のような気がしてならない。

露地ものが出回るちょうどこの時期、手に入れることに少々の難を乗り越えても「露地ものの大葉」にこだわりたいものである。



蓼(たで)

大江戸料理帖(新潮社 福田浩 松藤庄平著)という本に「香魚もどき」(あゆもどき)という料理がある。これは油で揚げた豆腐に鮎の塩焼きには欠かせないあの「蓼酢」をかけたもの。“豆腐の揚げたもの”と“鮎”とは本来全く異なる味わいなのにこれを“もどき”と呼ぶには少し無理があるとその解説も指摘する。しかしその“豆腐を香ばしそうに揚げたもの”に青々とした蓼酢をかけた・・その料理写真が妙に目に留まり“作ってみたい”“食べてみたい”衝動に駆られてしかたが無い。このことがきっかけで“青い蓼”探しが始まったがこれにはかなりの時間を費やしてしまった。

都内の殆んどの百貨店を一日かけて歩き回ったが結局見つからず、店の担当者達は「蓼酢用のササタデ」の名前すら知らないのが現状。こんな風に時代の流れの中で需要が先細り、耐え切れずに消滅してゆくものもある。これが現実か・・と悲観的になっていたら、「鮎の時期に卸売市場の専門店へ行けばきっとある・・」と友人が教えてくれた。こうしてやっと手に入れることが出来た蓼。

この「蓼」(ササタデ)、葉を一枚口に入れて噛んでみる。軽い青臭みが口いっぱいに広がった後に辛味が来る。痺れるような辛味だが山椒のそれとは少し違う。一般的にはこの蓼をすり鉢で擂り、これを酢でのばして焼鮎に添える。この素朴な香りと清涼感が鮎をいっそう引き立て、江戸のグルメたちは季節感に酔いしれながら舌鼓を打ったのだろう。“豆腐を使ったもどき料理”も「もどき」ではないにしろ風情のある味わいだった。毎年この時期には一度は口にしたい「味」である。

蓼は日本各地の水辺に自生している植物で万葉集に蓼を詠った歌があることから奈良時代には栽培されていたらしい。サッパリした清涼感ある香りと後味に残る強い辛味がある。「タデ食う虫も好きずき」とは辛味や香りがあるのに虫がつくから。

写真はグリーンの「ササタデ」と「紅タデの子葉である「芽タデ」。食用のタデは「ヤナギタデ」で「アイタデ」「紅タデ」「ホソバタデ」「アオタデ」「ササタデ」などたくさんの品種がある。効能としては解毒作用や魚の生臭みを消す作用があるといわれ刺身のツマや魚料理のあしらいには欠かせない日本のハーブである。

薬味 蓼酢(たです)


 (2人分)
(葉)50g
白梅酢 適宜
一般的には醸造酢を使う。白梅酢を使うとサッパリ感が強調される。



木の芽

「山椒」(さんしょう)は日本全土に分布する日本最古の香辛野菜といわれています。

春の若芽を「木の芽」、4月〜5月に黄色の花をつけると「花ざんしょう」、6月(初夏)に花が結実すると青い実がなり「青ざんしょう」と呼ばれ、これが秋になると赤い実となり「実ざんしょう」、さらに裂開して黒い種子がはじけると「割りざんしょう」、「青ざんしょう」を粉にしたものは「粉ざんしょう」とその時期によって様々な呼ばれ方があり、山椒の木の枝も香りが高く「すりこ木」に利用されました。

その季節の食べ物に応じて芽・花・実・幹すべてがそれぞれに活用されてきたのです。

春の筍料理には「木の芽」の香り、うなぎの蒲焼やどじょうの柳川には粉ざんしょうの風味と辛味が欠かせません。初夏の青ざんしょうの醤油煮やじゃこ山椒の佃煮も香り高い伝承料理です。

また、「山椒」には胃健作用や利尿作用、駆虫作用などがあるといわれています。

日本のハーブ「山椒」。この爽やかな香りと辛味は正に先人達が伝える食文化の香りとも言えます。「食を通して四季折々の季節感を味わう」という日本人の感性の豊かさを現代につなげてくれたのは「日本のハーブ」達なのかも知れません。

薬味 木の芽塩(きのめじお)





 (2人分)
木の芽 (葉)5〜6枚
自然塩 適宜



  1. 木の芽はよく洗い、布巾などで挟み水気を切り微塵切りにする。
  2. 自然塩と合わせ緑色の美しい香り塩となる。
冷奴に添えていただく。


花わさび

「わさび」は日本独自の植物で古くから山間地の渓流に自生し、また栽培は江戸時代には始まっていたようです。魚毒や魚臭を消す効果がありこの頃から握り鮨にワサビを塗るようになったとされています。

花わさびは、わさびの茎に花蕾のついたものを「花わさび」と呼び、白い清楚な花と独自の香り、風味を楽しむ言わば春期限定「わさび」です。

地域によって多少のズレがあるものの、3月から4月にかけ桜の開花とともにちょうど「花わさび」の季節でもあるのです。ほんの一時期しか出回りませんので手に入れるタイミングが難しい薬味ですが一年に一度、この香りで季節感を堪能するのも深い味わいがあります。

この茎わさびに胡麻油を和わせるとエグミが円やかさに変わるのも味わいの妙といえましょう。 




 (2〜3人分)
花わさび 1束
醤油:酒 1:1、適宜
圧搾タイプの胡麻油 少々



  1. 花わさびは熱湯をくぐらせ、直ぐに冷水にさらして熱を取りザルあげて水切りをしておく。
  2. (1).の花わさびを3〜4cmに刻み、ボールに入れ塩少々振りかけて手でよく揉みしんなりさせる。
  3. 味見をしてエグ味がきつかったら水洗いして絞り、もう一度薄塩で塩もみをする。
  4. 醤油と酒を1:1で少々加え、胡麻油を少々かけ和る。
  5. 冷奴にこの花わさびをのせていただく。