菜 種

IMAGE春、野原一面を黄色く染めていた菜の花は、今ではすっかり姿を変えて、緑一色の背の高い植物に変わっている。種を持ち、これから更に全体が黄色味を帯び、熟度が増していく。カサカサに乾いた細長い莢の中から黒茶の種がはじけ出す頃、菜種を収穫して更に乾燥させる。乾燥させた菜種は薪(廃材など)を燃料に鉄釜でじっくりと炒りつけられ、いいころあいに火が通ると、工場中が菜種の香ばしいかおりで充満する。さて、ここからが本番で、この炒り菜種を圧搾機で絞るのである。不純物を取り除き、ろ過機でろ過して瓶詰めにされて商品となる。これで純度100%、脱臭などせずに香りもそのままストレートの折り紙つきの“一番絞り”となる。

三之助豆腐の揚げ物は全て、この工程で作られた島根県出雲市“影山製油所”の菜種油を主とし国産の菜種油100%で作られている。三之助の揚げ物の工場に行くと、油揚げの揚げ立ての香り、ガンモや厚揚げのこうばしい香りがたまらない。“菜種油”で豆腐生地を揚げた独特の香りなのである。

瓶に入った菜種油を透かしてみると、黄金色に輝く。菜種油の色は菜の花の色。春の野に満開になって風にそよぐ、あの菜の花の輝きの色なのだ。その菜の花色が油揚げやガンモ、厚揚げの上に着き、黄色い色となるのである。

IMAGE
IMAGE

一般の菜種油は、まず原材料が国産ではない。重油を使って乾燥させ、ヘキサンという石油から抽出した化学的なものを加えて油分を効率よく搾るのだ。精製については、影山製油所は水を加えてゆっくりと不純物を取り除くのに対し、一般の製油工程は硫酸や苛性ソーダを使う。脱色剤を使うと無色化するが、水だけで脱色すると天然の色素がきちんと残る。菜の花色だ。

一般のものはこれにリン酸やクエン酸でpH調整をして酸化防止をすることが多い。ヘキサンで抽出しなければ抗酸化物質が残って自ら酸化抑える作用が残る。一般的に加える消泡剤を影山製油所の場合は加えないので、揚げ物をすると始めは泡も出るが、次第には泡も出なくなる。まだある。一般のものは菜種の匂いを取る為に脱臭剤も加えるが影山製油所はそれをしない。菜種の香りがしっかりとする。そして何と言っても純粋菜種のすごいところは油自体にパワーがあるということである。家庭で揚げ物をしても、その処理、カスをきちんと取り除いて、別容器に密閉して冷暗所に置けば、一般の油の3倍近く長持ちすると聞く。本物の菜種油は、「香り」・「色」・「味」・そして「保存性」、それら全てにパワーがあるということである。

食べ物は、加工品も含めてその原材料、食材は全て命を持っている。それを人間は食し、自分のエネルギーにしているのである。パワーのあるものからは力強さをいただく。そしてそこに感謝が生まれる。経済効率先行で化学薬品や手を加え過ぎているものは、それ自体が元々もっているパワーが無くなってしまう。感謝は薄れる。

食べ物は出来るだけ手を加え過ぎないストレートなものがいい。そしてそれが出来た背景を描けるのがいい。縁があってそれを手がけた生産者の顔が見えたりすると、愛着が湧き、もっと美味しいものに変わってゆく。食べ物の「美味しさ」にも何かの作用で命とパワーが入り込むのかもしれない。