三之助豆腐で作る豆腐百珍
【2007年】
【6月】 あらかね豆腐
【5月】 木の芽田楽
【4月】 草の八杯豆腐
【3月】 瞿麦豆腐
【2月】 別山焼
【1月】 梨豆腐

【12月】 薯蕷かけ豆腐
【11月】 蓮豆腐
【10月】 摺り流し豆腐
【9月】 揚げ流し
【8月】 飛龍頭
【7月】 精進の海胆田楽


三之助豆腐で作る豆腐百珍

【十二月】 薯蕷かけ豆腐

IMAGE今月は、三之助の「和ら絹」を使って「豆腐百珍四十七、薯蕷かけ豆腐」(いもかけどうふ)を作りました。

絹豆腐を葛湯で温め、麺つゆ出汁の中で火を通した卵白入りの大和芋の摩りおろしをかけていただくものです。風味付けにもうすっかりお馴染みになった江戸の風味・・割り胡椒を添えていただきます。

解説文には、豆腐はうどんより太く切る・・とありますが、お手本の写真を見る限り細長に切らずに、絹豆腐1丁を1/4に切るだけでよいようです。

和ら絹の滑らかさとこっくりしたうま味、大和芋のふんわりした食感が麺つゆ出汁によく合う一品です。それぞれの甘みやうま味、滑らかさやふんわり感などの特徴がよくわかり、それでいてお互いの個性を潰さずによく調和した料理と言えましょう。

最後に盛る風味付けの割り胡椒が全体をよくまとめています。素材の扱いはそれぞれシンプルなのに、料理として出来上がったときの完成度には驚きを隠せません。

江戸料理の奥深さとふくよかさをご堪能下さい。


材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【十一月】 蓮豆腐

IMAGE今月は、三之助の「三之助豆腐」を使って「豆腐百珍七十五、蓮豆腐」を作りました。

豆腐百珍の「蓮豆腐」(はすどうふ)とは、三之助豆腐と蓮の摩り下ろしをよく摺り合わせ、美濃和紙に包んで湯煮し、練り胡麻入りの甘い敷き味噌の上に盛ります。この時期出回る新蓮根の風味と仕上げに使う一味唐辛子の一色は、味にも見た目にも秋の趣を感じさせるそんな料理です。

今回この「蓮豆腐」、団子にする過程で美濃和紙に包んで湯煮するとありますが、なかなか手に入りにくい美濃和紙の代わりに手に入りやすい「晒し布」を使うことに致します。また、湯煮して豆腐と蓮根の旨味を逃がすことを避け、茶巾を「蒸す」ことで仕上げたいと思います。ポイントは豆腐をよく擦って粘りを出しておくこと。そこへ粗く擦り下ろした蓮を混ぜ、薄い塩味をつけます。

味わって見ると、現代にはない味わいとその食感。いつもながらに江戸時代の美意識には脱帽します。

江戸のこころ、秋の風情を楽しむ「蓮豆腐」をぜひお試し下さい。


材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【十月】 摺り流し豆腐

IMAGE今月は、三之助の「和ら絹」を使って「豆腐百珍十四、摺り流し豆腐」を作りました。

豆腐百珍の「摺り流し豆腐」(すりながしとうふ)とは、絹豆腐と葛をよく摺り合わせ、味噌汁に放ち煮固めて葛と豆腐の柔らかな食感を楽しむ椀料理です。吸い口には、砕いた胡椒が添えられ、江戸の香りを存分に放っている味噌汁です。

「摺り流し豆腐」は、豆腐百珍では尋常品という括りに記されています。そもそも尋常品とは、“どこの家庭でも常に料理するもの”というものですが、「摺り流し豆腐」の仕上がりやその食感は、“常に家庭でも料理するもの”という枠を超え、料亭で出されるような洒落た椀であるかのように“粋”な仕立てになっています。見た目にはやや地味な仕上がりなのですが、料理を完成するまでの手間や相手への思いやり、食した時の葛豆腐の優しい食感と喉越しは、仕上がりからは想像を超えて、驚きさえ感じられます。吸い口には割り胡椒が添えられ、ここでも例の“江戸の香り”が活かされており、正しく江戸の心を写した「わび」、「やつし」の精神なのではないでしょうか。

豆腐百珍の解説には、「尋常品」の数々は、家庭で作る料理にしては洒落ていて粋なものが多いとあり、本を面白くするための編集なのでは・・と触れていますが、尋常品でさえもその美意識の高さには頭が下がる想いがいたします。

この「摺り流し豆腐」を当時の江戸グルメに習って作り、味わって見ると、一瞬、現代からタイムスリップして当時の美意識や和の心の奥深さに触れる体験ができるような気がします。


材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【九月】 揚げ流し

IMAGE今月は、「三之助豆腐」を使って「豆腐百珍九十四、揚げ流し」を作りました。

豆腐百珍の「揚げ流し」(あげながし)とは、豆腐の水切りをごま油で素揚げしたものを水に浸けて油抜きし、更に葛湯で煮て山葵(わさび)味噌をかけたものです。

現代では考えられない工程を経て供される「揚げ流し」は、冷水に晒す油抜きとその後、更に葛湯で煮ることによりさっぱりしているけどコクのある味と優しい食感が感じられます。このふんわりした食感に山葵味噌を添えることで味に厚みが生まれ、現代の常識や価値観、美意識とは違う次元の味の奥行きを感じさせます。

「揚げ」て「水で油抜き」して「葛で煮る」、この三段階の手間をかけることで味の深さを引き出しているのです。しかも大変な手間では無く、ちょっとした“ひと手間”なのです。江戸グルメ達は、この本で「食」を楽しんでいたと聞きます。とかく、「安い」、「早い」、「簡単」が求められている今のご時勢で、この「ひと手間」の大切さを改めて考えます。豆腐と日本に昔からある基本的な調味料でこんなにも奥の深い味、優しい味が引き出せるなんて、現代のスピーディーさの価値とはいったい何なのか、また、現代だからこそ“ひと手間”の大切さを見直す時では?・・と考えさせられてしまいます。

このひと手間をかけた料理を生み出した江戸の先人達に思いを馳せながら粋な一品を味わってみてはいかがでしょう。


材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【八月】 飛龍頭

IMAGE今月は、「かちかち」を使って「豆腐百珍十九、飛龍頭」を作りました。

百珍の「飛龍頭」(ひりょうず)とは、牛蒡、椎茸、人参、木耳、麻の実、銀杏を炒めた具を中心に入れ、周囲を豆腐の衣で団子状に丸めて揚げたもので、江戸で言う、「がんもどき」のことを指します。ポルトガル語で肉団子を「ヒロス」と呼び、それが転化し「飛龍頭」となったと言われ、上方では「ひろうす」とも呼ばれています。

具は、豆腐衣に全てを混ぜ込んで形を整える方法もありますが、ここでは饅頭の餡のように中心に入れてあります。解説にもある通りこちらの方が丁寧さと豪華さが感じられます。飛龍頭を揚げるときに小麦粉をまぶしてから揚げることで香ばしさと歯ざわり感がとても増し、ちょっとしたご馳走です。

中の具を季節の野菜に換えれば、一年を通して楽しめる一品です。


材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【七月】 精進の海胆田楽

IMAGE今月は、「かちかち」を使って「豆腐百珍五十九、精進の海胆豆腐」を作りました。

百珍の「精進の海胆豆腐」とは、麩、みりん、醤油、唐辛子を合わせて練ったものを海胆(うに)に見立てて豆腐の田楽に塗りつけ、焼いたもので、当時からよくあった精進料理のもどき料理です。「もどき料理」とは、野菜やきのこ、穀類だけを用いて肉や魚の見た目、食感、味などを真似た料理を指します。

精進料理では動物性は殺生に繋がるので用いられずに「がんもどき」や「うなぎもどき」などいわゆる「もどき料理」が昔からあります。豆腐自体、中国から寺に伝わり、その僧侶達の修行とともに広まっていった食品でもあるので“豆腐百珍”の中にも「もどき料理」が何品か登場しています。また、逆に四十三番「海胆田楽」のように“生うに”を使ったものもあり、“豆腐百珍”という本が江戸の庶民の中で受け入れられ、おおいに活用されたレシピ本であったことを伺わせます。

見た目は全くの海胆、ほんのり甘くて香ばしい「海胆もどき」は、現代では甘くて優しい味のお八つになるような一品になるような気がしました。


材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【六月】 あらかね豆腐

IMAGE今月は、「かちかち」を使って「豆腐百珍三、あらかね豆腐」を作りました。

百珍の「あらかね豆腐」とは、しっかりと水切りした豆腐を熱い鍋で炒りつけ、酒と醤油で味付けし、仕上げに粉山椒の風味をつけて供す・・という料理です。

手早くできて、味付けも極めてシンプルなものですが、この豆腐百珍ではもうすっかりお馴染みの“粉山椒の風味”がなかなか奥深い味わいを引き出します。

醤油や味噌で煮染めたもの、或いは炒りつけた料理に程よい加減の粉山椒の風味をつけて供するこれらの料理は、既に「江戸料理の代表的な風味」といってもいいくらい存在感のある香りを放ちます。

豆腐を炒るとき油は使いません。よく熱した鉄のフライパンで手早くつくるのがコツとあります。箸を5〜6本使って豆腐を炒ると大きいもので2?大の塊に解れます。醤油味をややしっかりとつけるのがコツ。しっかりつけた醤油の味に粉山椒が一層映えます。

現代人の味覚をも魅了する江戸の味、シンプルなのに奥深い味わいの“あらかね豆腐”をぜひお試し下さい。

材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【五月】 木の芽田楽

IMAGE今月は、「かちかち」を使って「豆腐百珍一、木の芽田楽(さのめでんがく)」を作りました。

百珍の「木の芽田楽」とは、田楽用の下処理、つまり豆腐に圧しをかけて充分に水切りした豆腐を田楽用の串に刺し、火で炙ったところに山椒風味の木の芽味噌をぬり、さらに香ばしく焼いたものです。味噌の緑色を木の芽のすりつぶしだけで仕上げるととても辛くなるので“青寄せ”という青菜から取った色素で色をつけます。ほうれん草や小松菜をすりつぶし、湯に入れて浮いてきた色素をすくい集めます。化学的に処理をしたりスピードを求めたりする現代だからこそ見直したい大切な先人からの申し伝えのような気がします。

風味付けの山椒は、日本全土に分布する日本最古の香辛野菜といわれています。「木の芽」「花山椒」「青山椒」「実山椒」「割山椒」「粉山椒」とその生育の季節に応じてそれぞれに芽、葉、花、実を活用する食に対しての感性にも頭が下がります。

現在でも山椒は、春ならではの「木の芽味噌」や「うなぎの薬味」としての位置付けは揺るぎませんが、江戸時代には煮物や炒め物の風味付けなどにもよく使われていたようです。

四季折々の季節感を楽しむ心、その一つとして、春の風味には欠かせない「木の芽味噌」の香り、「青寄せ」という調理法は、現代に生きる私たちにとって忘れてはならない大事な知恵といえましょう。

材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【四月】 草の八杯豆腐

IMAGE 今月は、「三之助」を使って「豆腐百珍七、草の八杯豆腐(くさのはちはいどうふ)」を作りました。

百珍の「草の八杯豆腐」とは、だし汁6:醤油1:酒1で合計8杯になるので八杯豆腐と名付けられたとあります。300ccの昆布だしに50ccの醤油と酒を鍋で温め、うどんのように切った豆腐を別鍋で温めた後、一緒に盛り付け大根おろしを添えて供すというもの。だしは昆布のみの水出汁を使い合計8杯のこの通りのやり方で作りました。醤油色が濃い出汁ですが、温めたうどん状のやや引き締まった豆腐が入り水切りした大根おろしを添えると絶妙な出汁の味に仕上がります。うどん状に切った豆腐は湯を張った鍋に切ったそばから放っていくと割りと型崩れせずに形状を保ちます。三之助豆腐は柔らかくこの形状に切るのは難しいことと勝手に決めていましたが、美味しい出汁とふんわりしたうどん状のお豆腐をいただくことができました。

今、改めてこの料理の仕上がりの写真を見ていますが、当時の美意識の高さを感じます。白く四角い豆腐をうどん状に切り、中心に大根おろしを置くこの器の中の美の世界には高いデザイン性と出汁の配合の妙に関心するばかりです。毎回のことですが、この美と味覚に習って、少しでも退化してしまっている現代人の感覚を呼び戻せたら・・と思います。

材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【三月】 瞿麦豆腐

IMAGE今月は、「三之助」を使って「豆腐百珍五十四、瞿麦豆腐(なでしこどうふ)」を作りました。

百珍の「瞿麦豆腐」とは、瞿麦(なでしこ)の花を想像して形作った百珍の中の佳品に含まれる料理で、豆腐の上に青海苔入りの緑色の味噌だれをかけ、その上に茹でた山芋のふんわりした裏ごしの白、さらに花芯に見立てた赤い唐辛子を中心にあしらった見た目にも美しい豆腐料理の一品です。

豆腐百珍の佳品とは、風味に富み、見た目にも美しい料理に分類される20品を指し、他の分類品目の美しさもさることながら、見た目の美しさだけで鑑賞しても、一品ごとに全てが異なった形状であるにも関わらずその全てが美しい料理といえる目にも楽しい料理が揃っています。

そんな中の一品である「瞿麦豆腐」は湯に入れて温めた豆腐の上に、青海苔入りの味噌ソースをかけ、その上に茹でた山芋の裏ごしがのせてありますが、口に入れたとき、山芋の裏ごしがクリームのような舌触りで“瞿麦(なでしこ)”の花のやさしいイメージと合致し、その美しさと美味しさを尚一層引き立てているようです。また、白味噌と青海苔のほんのり甘くやさしいソースの味も全体の美しい花のイメージをさらに膨らませているような気がしました。

美味しい(おいしい)とは、「美しい味」と書く由縁が解るような気がした一品でした。

材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【二月】 別山焼

IMAGE今月は、「三之助」を使って「豆腐百珍九十二、別山焼(べっさんやき)」を作りました。

百珍の「別山焼」とは、うどん状に切った絹ごし豆腐を醤油と酒で整えた出汁で温めておき、それをご飯を搗いて割り胡椒と味噌をまぶし、焼きおにぎり風にこんがりと焼き温めたご飯団子にかけて供す・・というもの。

作る際に、口に入るとお豆の香りと共にふわぁっと溶けて無くなってしまうような軟らかい三之助の豆腐では、はたしてうどん状に切れるのかといろいろな種類の豆腐で試しましたが、三之助豆腐を少々太めに切ることで、どうにかうどんの形状を作ることができました。

また、合わせる割り胡椒と味噌をまぶした焼きおにぎりの団子は、出汁が染み込んで、東北の“きりたんぽ”のような食感が楽しく、これに割り胡椒と味噌の風味がとても斬新で、いつもながらに、これもまた昔の発想とは驚きの一品でした。

この胡椒、日本に入ったのは奈良時代で、一般に使われるようになったのは江戸時代の前期。胡椒はうどんなどの薬味に多く使われたようです。しかし江戸の後期になると、薬味は七味唐辛子にとって代わられ、うどんに胡椒という図式はすたれていったのだとか。

毎回、“豆腐百珍”のレシピを一品ずつ再現することで、あっという間に二百数十年前までタイムスリップし、その頃に生きた人々の美意識や風情、そして所作までも体験できてしまいます。

今回の発見は、胡椒と味噌を香ばしく焼いた「風味の妙」でした。


材料と作り方 豆腐百珍 保存版

【一月】 梨豆腐

IMAGE今月は、「三之助」を使って「豆腐百珍二十三、梨豆腐(なしどうふ)」を作りました。

百珍の「梨豆腐」とは、押しをかけて水気を絞った木綿豆腐に粉末にした小松菜や大根の葉の干葉(ひば)を混ぜ込み、茶巾形にして澄まし汁を張り、柚子の吸い口を添えて供す料理で、干葉が豆腐に混ぜ込まれたその色合いが梨の果肉に似ているところからつけられたといいます。

今回は大根の葉で干葉を作りました。よく洗った冬大根の葉を四、五日天日干しにし、太陽と寒風に晒します。パリパリに乾燥した大根の葉をみじん切りにし、更にフライパンで煎ります。これをすり鉢で擂って粉末にしたものを絞った豆腐に刷り込みました。大根の干葉はとても風味が良く、こっくりした滋味も加わり、まるで胡麻をすり込んだようでした。椀に盛った完成品を一口いただいた時は、豆腐とこの干葉をすり込んだだけのシンプルな調理にも関わらず、栄養的にも優れ、風味も良く、滋味にあふれるこの梨豆腐に暫し絶句してしまうほど強烈な印象を受けました。

どうして二百年ほど前の料理がいつもシンプルなのに完成されているのでしょうか?百珍を料理してつくづく感じる不思議です。現代のように情報が溢れ、材料が溢れ、良いものも紛い物も混沌とし、調理法もスイッチを押すだけ・・と益々便利な環境に変化していきますが、百珍には、何故かそれとは真逆なものを感じます。少ない材料、調味料でどこまで広げることが可能なのか、深めることが可能なのかを問われ、「ほら、考えを変えればこんなに広がるんだよ!」と教えられているような気がします。

材料と作り方 豆腐百珍 保存版